ウィメンズファッションブランド、プティローブノアー(petite robe noire)のデザイナー・阿部好世が15-16AWから新たに、ヨシヨ(YOSHIYO)を立ち上げた。彼女がインスパイアされたというベルリンを拠点に活動する現代美術家・手塚愛子と共に、「ダイアローグ(dialog)」をテーマにしたポップアップストアを8月26日から伊勢丹新宿店本館3階=ステージ#3で開催する。
現在開催中の国立新美術館での展示のため、一時帰国した手塚さんと、阿部さんのオフィスで「クリエーションへの思い」「アートとファッションの関係」について話を聞いた。
昨年10月、知人を介してニューヨークで出会ったという阿部さんと手塚さん。その後、2人は共通の思いや悩みなどをオンラインで会話する中で意気投合したのだという。女性が仕事とプライベートや家庭とのバランスを考える30代。2人もチームを率いる女性として、いいものを作りながら、どうすればどれも充実させていけるのかをいつも考えているという。そして、ファッションとアート、アウトプットの形こそ違えども、“物を作る”ことに対する思い、迷い、問いなど、多くの共通項があったという。
■クリエーションへの思い「古いものと新しいものをつなぐ」
ファッションの世界に身を置く阿部さんは、今年ブランド設立から7年を迎えたところだ。その間、阿部さんはファッションを通じてトレンドを発信するというよりは、「物を作るってどういうことだろう?」という問いに答えるかのように様々なクリエーションを生み出してきた。事実、彼女のブランドでは「古いものと新しいものをつなぐ」という一貫したテーマでコスチュームジュエリーと洋服を創作している。古き良き素材や技法への敬意や感嘆が彼女の原動力のひとつのようだ。
手塚さんは完成された織物から糸を引き抜き、その柄を再構築する作風のアーティストだ。例えば、チューリッヒでファッションをテーマにしたエキシビジョンでは、ファストファッションの代名詞でもあるH&Mのスカーフから、そのテキスタイルを構成する横糸を色ごとに引き出して並べた作品を展示した。そうすることで、まったく同じに見えるスカーフを構成する要素を、異なる形状で見ることが可能となる。織物は手仕事であれ、大量生産であれ、糸を織りあげて形作られていることに違いない。この物を構築するまでの時間や、一度形を変えた要素を再度見えるものにするという行為を通じて、時間という概念に対する問いを提示しているのだ。彼女もまた、クリエーションを通じて、今あるものや価値観に対する問いを投げかけているのだ。
■新たな挑戦
阿部さんにヨシヨを始めたきっかけを訊いてみた。すると「プティローブノアーを初めて7年が経ち、なんとなくプティに求められていることが分かってきた。それと同時に、求められている姿を壊していく勇気を持つことが年々戦いになってきている自分がいた」と阿部さん。そこで、コスチュームジュエリーはプティローブノアー、洋服はヨシヨとブランドを分けることで、「ヨシヨでは、自分自身が躊躇することなく、“物を作り出す”という自分の解釈を洋服に落とし込んでいきたい」と話す。
また「私はファッションの世界に身を置いていて、最終的には身につけてもらえる形にしないといけないことが分かっています。だからこそ、制作過程までの考えというか、これだけ物が溢れている世の中に“物を作り出す”ことの意味を少なからず考えて行きたいと思っています」と続けた。
それに対し、手塚さんは「阿部さんからは、ファッションでも仕掛けたいと考えているんだと感じました。きっと、世の中のニーズに答える服作りとは違うアプローチをする人なんだと感じています」と返す。この純粋な創作への思いが、時に物作りに対する葛藤に繋がることは、想像に難くない。このクリエーターとしての葛藤を互いにシェアできたことで、阿部さんと手塚さんの距離が一気に近づいたのだ。
後編に続く。