三越伊勢丹がデジタル戦略の強化としてデジタルデバイスの予約販売を6月15日から開始する。スマートフォンやタブレットなどモバイル端末からの音楽と同期して歌詞が表示されるというこのスピーカーの価格は32万4,000円。
スピーカーとしては業界初となる透過型スクリーン内蔵型とはいうものの、wifiスピーカーとしてはハイエンドモデルとなるこのスピーカー。果たして、何がすごいのだろうか?
リリックスピーカー(Lyric Speaker)と名付けられたこの製品プロジェクトは、米国で開催されるIT業界の総合カンファレンス「サウス・バイ・サウスウエスト・インタラクティブ・フェスティバル(SXSW)」で2015年度のアクセラレーター・コンペティションでBest Bootstrap Company賞を受賞したことでも話題を集めた。目立った出資を受けていないが最も創造性と可能性にあふれ、今後飛躍が期待されるチームに与えられる賞だが、SXSWで日本のチームがアワードを受賞したのは初。この受賞背景には日本でも最近広まりつつある“リリックビデオ”の米国内での人気がある。
ユーチューブの登場により米国では数年前からファンメイドによる歌詞だけを表示するムービーが注目されだし、洋楽業界ではプロモーションビデオとしてオフィシャルな作品が発表されるようになった。日本ではボーカロイドの登場により、ニコ動などで曲と一緒に歌詞が表示される作品が登場し、従来のカラオケビデオとはまた違ったシーンで、歌詞を表示する動画が注目を集め始めている。
今回三越伊勢丹が販売するリリックスピーカーは、スマホで再生されている曲をwifi経由で自動的に曲のメタ情報を取得。歌詞をリアルタイムでモーショングラフィクスに変換し、スピーカーに内蔵された透過型スクリーンで動画再生するというもの。現在約30万曲近い楽曲データの歌詞を表示することが可能で、今後曲数は順次アップデートされていく。Apple公式サイトによれば、iTunesの取り扱い曲数は4300万曲ということだが、一般の通信カラオケの平均が25万曲程度ということから考えれば、メジャー曲にはほぼ対応している状況。歌詞のデータのない曲、インストゥルメンタルの曲は、iTunesのビジュアライザー同様、モーショングラフィックだけが流れる。画像はインテリアのツールとして開発しているため、すべてモノクロ表現となっている。
「音楽に歌詞を取り戻したかったというのが、開発のきっかけ。レコード、CDで音楽を聴いていた世代は歌詞カードを見ながら曲を楽しんだが、ダウンロードやユーチューブで音楽を聴く時代になって、音楽に含まれる歌詞の文学的な価値が見失われている気がして」と話すのは同スピーカーの開発を手掛けたSIXのクリエイティブディレクターの斉藤迅氏。自身もプロのミュージシャンとして活動しており、『一瞬でやる気を引き出す38のスイッチソング』という歌詞カルチャーに関しての書籍も先頃出版している。
「リリックビデオを自動作成する上で、単に歌詞を書き出すというのではなく、曲のムードに応じて、様々な動きで文字を動画で表示させるプログラミングが必要とされた」と話すのは、プログラミングを担当したドット・バイ・ドットCTOのSaqoosha氏。あらかじめ数人のモーショングラフィッカーが制作した動画を曲調、BPM(速度)音の大きさに合わせ、どの曲にも違和感なくクールなデザインで表示させるタイムスタンプ(タイミング)を設定する技術が、SXSWでも高い評価を得た。因みにSXSWでプレゼンテーションに使用されたのは、ボブ・ディランやエミネムなど、緩急織り交ぜた提案だったようだ。
本体のスピーカーは透過型スクリーン内蔵のため、スピーカーユニットから電磁気回路を取り除き、スピーカー筐体内の空気振動を利用して動作させるパッシブラジエーター方式。
IOT、デジタル戦略強化を打ち出す三越伊勢丹の新規事業の一環としてお目見えするこの新世代スピーカーは、6月15日伊勢丹新宿店本館5階センターパーク、三越日本橋本店本館5階、三越銀座店7階リビングフロアの基幹3店舗で展示、伊勢丹、三越のオンラインサイトで予約受け付けをスタート。納品は9月中旬を予定している。
Text:野田達哉