「モノを売らない」新しいサービスをパリでスタートさせた男がいる。
昨年秋にサンジェルマンデプレにオープンした「ミワ(MIWA)」は、日本に古来伝わる“折形”をラッピングサービスとして会員に提供する場所だ。紙を折って、贈答に使用するというこの“折形”は、遊戯としての折り紙とは違い、精神性、作法を背景にした日本独自の儀礼。MIWAではそれを儀式として行っており、煎茶の茶会から始まり、専門スタッフが和紙と水引を用いて会員が持ち込んだ贈答品をラッピングしていく。
このユニークなショップの創設者である株式会社ライトニングの佐藤武司氏に、ビジネスの狙いを聞いた。
――MIWAを立ち上げたきっかけは?
元々、広告の映像制作や商品開発に携わる中で、消費材市場における新しいブランディングに興味を持っていた。坂本龍一の呼び掛けで始まった、国産木材の需要を活性化させることを目的とした「モア・トゥリーズ(more trees)」の活動に3.11の前後に関わり、国産のヒノキで作った携帯電話「タッチウッド(TOUCH WOOD)」を企画した。TOUCH WOODはデザインや機能など携帯電話というモノとしての価値だけでなく、国産木材市場の活性化というその存在意義を含めて価値として認められ、市場で認められた商品。このプロジェクトに関わったことで、モノ自体の価値だけを訴えるのではなく、そこに込められたストーリーや気持ちを大切にすることをビジネスとして広めたいと思った。
――MIWAでは「モノ」をではなく、「ストーリー」を売るビジネスだと?
MIWAに持ち込まれたモノは、折形の儀式を通して贈る人の気持ちが込められることで唯一無二の“モノ”になる。これはブランディングの考え方と共通していて、「ルイ・ヴィトン」などの海外ブランドが、歴史や伝統など他にはないストーリーを持っているからこそブランドとして確立されているのと同様だ。しかし、日本ではこれまで、良いモノを作りさえすれば売れる、と信じられてきた。だから日本で本当のブランドが育たず、日本製の商品の国際競争力が落ちてきているのだと思う。そんな今だからこそ日本発のブランドを作りたいと思った。モノではなく、ストーリーを売るMIWAは「ブランディングの実験」とも言える。
———日本独自の「ストーリー」とは?
日本人は文字だけで『ありがとう』と打てば済むのに、わざわざキャラクターやハートマークを付けて送る。単にメッセージを届けるというだけでなく、時間や手間を掛けて絵文字を選んで送る、という行為そのものもメッセージとして相手に届けることになり、相手もそれを丸ごと受け入れる。
――パリでMIWAをスタートしたのにも理由が?
これまで外国の人々は『ゲイシャ』や『ラーメン』など、日本の文化の中に自国の文化との違いを見出して楽しんでいた。だがそれは、情報があまりなかった時代の話。今は、例えば日本人と一緒になってアイドルやアニメに熱狂するオタクの外国人がいるように、異文化をその精神性まで理解しようとする人、そして実際に理解できる人が増えている。だから、MIWAが受け入れられる土壌が外国に、特に知識層が集まるパリにあると考えた。
――このビジネスが成功する鍵は何だと考える?
ビジネスにおいてフォロワーにならないためには、今までと違った新しいことをしないといけないと思いMIWAを始めた。これからも挑戦を続けて行く。