2002年に日本に上陸したジャン=ポール・エヴァン。ショコラの文化を日本に定着させた立役者の1人と言ってもいいかもしれない。フランスで最も権威のあるLe Guide du Club des Croqueurs de Chocolatの2007年版以来、最高位の5タブレットを獲得し続けている。素材へのこだわり、独自のクリエーションなど、希代のショコラティエに三越銀座店にて話を聞いた。
――ブランド設立25周年おめでとうございます。ショコラティエとして25年間トップであり続けるというのは、なかなか簡単なことではないと思います。
25年間、ずっとトップであり続けたとは思っていませんが、常に変わり続けよう、進歩し続けようとしてきたことが役立ったのかなと思います。品質、味についてはもちろん、表現の部分についても、いつも厳しい基準を自分に課しています。と同時に仕事をとても楽しんでいますし、それが自分の喜びにもなっています。それもきっと助けになったのだろうと思います。まず一つには、楽しむこと、喜びと感じること。二つ目には、厳格な基準をもって仕事に取り組むこと。それが幸い、功を奏したのではないかなと思います。
――厳しい基準とは、具体的にはどのようなことでしょう?
まず味わいに関して。これは自分のパーソナリティーの一部でもあるのかなと思いますが、味わうということ自体に非常に喜びを感じるのです。ただし、美味しくて楽しければいいというものでもありません。例えば味わったものを1週間後にも思い出せるかどうかといったようなことです。
――色々なところで「クチュールブランドのように」という言葉を口にされていると思いますが、エヴァンさんにとってのクチュールとは、どんなものだとお考えですか?
ショコラティエの世界でも一定以上のレベルのものに対して、厳密さ、厳格さというものが要求されると思います。それがなければブランドとしてのスタイルが出来上がらないでしょう。
――つまり仕事に対する姿勢とかいったものでしょうか?
モードの世界とちょっと似ているのは、コレクションという考え方で、何かテーマを巡ってコレクションを構成していくというところは共通していると思います。また仕事の方法としては、アーティスティックディレクターと一緒に仕事を進めていますので、そういった点でも共通性があるのかなと思っています。プレゼンテーションの仕方とか、自分の企画、自分のプロジェクトといったものをデザインするというイメージで進めているのですが、クチュールメゾンの世界でも、そのような仕事の進め方がされていると思いますし、実際、私と一緒に仕事をしてくれているアーティスティックディレクターのジャン・オッドという人は、モードの世界でも活躍しています。そういった意味でもクチュールとのかかわりがあるといえるでしょう。ただ、ショコラティエの世界では、こういった仕事の進め方をするのは珍しいかもしれません。
――モードからインスピレーションを得るということもありますか?
モードは何が魅力かというと、スタイルを持っていること。それが人を感動させるのですし、驚きを生むので、そういう部分に非常に惹かれます。ただ、自分のインスピレーションの源になっているかというと、特にモードに限ってというわけでなく、あらゆるものがその源になります。モードというのは何かというと、私にとっては、スタイルをもって驚きを呼び起こすものです。ですから、私としてはショコラとかガトーを通してスタイルを表現して、感動を呼び起こしたいと思っています。
――ご自身はどんなファッションがお好きでいらっしゃるんですか?
シックなものが好きだと思われているようですが、そうとも限りません。要はコンテクスト、文脈です。実は、昨日ももうすぐ2歳になる息子の靴を買うのにあれこれ見たのですが、最終的にはショコラの色、ブルー、赤、黄色ととてもカラフルな靴に決めました。こんなの誰も選ばないだろうというようなカラフルなものです。ですから、別にカラフルなもの自体が嫌ということではないんです。
――確かに、先ほど男性の体を模したチョコレートを拝見しました。茶目っ気のあるエヴァンさんの側面が表現されていると思います。
そうですね、あのデザインは自分の持ち味でもあるユーモアの感覚が出ていると思います。
(2/2に続く。)