「エルメス(HERMES)」は12月、東京藝術大学にてエルメス財団の活動を紹介する講義を開いた。この講義は、財団が若手アーティストを支援していることから同大の学生向けに行われたもの。約200名の生徒が来日した財団理事長ピエール=アレクシィ・デュマ(Pierre-Alexis Dumas)氏の話に耳を傾けた。
講義では「アーティスト・イン・レジデンス(ARTISTS’ RESIDENCIES)」と「エルメス・エディター(Hermes Editeur)」の2プロジェクトが紹介された。
「アーティスト・イン・レジデンス」は2010年にスタートした若手アーティスト支援プロジェクト。フランス中に点在するクリスタルガラスや革製品、テキスタイルなどのエルメスの工房とアーティストをつなぐ試み。彼らは工房に入り、技術を体験し、作品を制作する。毎年4人のアーティストが選ばれるシステムで、講義ではエリザベス・S・クラークのレザーリング、小平篤乃生(こひら・あつのぶ)のガラス作品、ガブリエル・チアリのテキスタイル作品などが、写真を交えて紹介された。
2013年で計16人がこのプログラムを修了し、16作品が制作された。エルメスは同年夏、パリのパレ・ド・トーキョーでそれらを作品展「コンダンサシオン」を開催。作品展は今年3月に銀座メゾンエルメス フォーラムへ巡回する。フォーラムでは会場構成が再構築され、新しい見せ方がなされるという。「良い取り組みだった。第2クールとしてまた新たな4年間を始める」とデュマ氏。
続く「エルメス・エディター」はアーティストとエルメスが出会い、共に同ブランドを象徴するアイテム「カレ(シルクスカーフ)」を製作するプロジェクト。アート作品としてのもの作りに終わるだけでなく、少量限定品として実際にブティックで販売する。
講義では第1回目の「エルメス・エディター」、ジョセフ・アルバース(Josef Albers)の「正方形へのオマージュ」の事例がプレゼンテーションされた。アルバースはドイツのデザイン学校バウハウス、米イェール大学で教鞭を執った人物で、カラーブロックで構成された正方形の作品が有名。エルメスのスカーフもカレ=正方形と呼ばれている。
スカーフのプリントはシルクスクリーンで重ねられていくが、色がにじまないよう図案に縁取りがされている。しかし、このプロジェクトではその縁取りを撤廃し、アルバース作品をそのまま再現することを追求。「通常用いられていた手法では不可能だったが、熟練職人が昔日のプリント手法を思い出し、作品の再現へ至った」とデュマ氏は力説した。この他エルメス・エディターでは、ダニエル・ビュレンヌ(Daniel Buren)による「Photo-souvenirs au carre - カレ:思い出のアルバム」、写真家・杉本博司との作品「影の色」が発表されている。
講義後は交流会が設けられ、貴重な機会とあってデュマ氏を学生達が囲み、熱心に質問を投げ掛ける光景が見られた。