西陣が奏でる音を絶やしたくない--西陣織細尾・細尾真孝【京都のクリエーティブユニット「GO ON」2/5】

2015.01.02

この30年で着物産業が約10分の1に縮小する中、「シャネルCHANEL)」「ディオールDior)」「ルイ・ヴィトンLOUIS VUITTON)」など、名だたるラグジュアリーメゾンの店舗インテリアに採用されているのが西陣織の老舗細尾」の織物だ。

京都で育まれた西陣織には約20の工程があり、それぞれの工程がその専門家に分業されている。ある職人は西陣織の特色の一つである箔を張った和紙を髪の毛より細い繊維に切る部分を担当し、ある人は織機の数千の経糸を張り替えることを生業とする。これらの西陣織の匠達は上京区を中心に半径7km圏内に集まっているという。

細尾真孝は海外ブランドからのオーダーが絶えない今の状況にいたるまでをこう振り返る。「二つの転機がありました。一つは帯に特化した従来の32cm幅の織り機を応用し、150cm幅で織れる織機を自社で開発した時です」。これによって西陣織の使われるアイテムがインテリアや洋服にと格段に広がった。2010年から毎年1台ずつ幅広の織機を増やし、現在は5台の織機がリズミカルな音を響かせる。織り幅を変えるという大胆な挑戦により、西陣織がパリコレクションのランウエイや世界各国のラグジュアリーブランドのショップインテリアとして、新たな活躍の場を得ることとなった。

もう一つは「クリエーションをデザイナーやクリエーターに委ねる点」という。8年程前、海外展示会に初めて出展した際は、和柄のクッションを展示したという細尾氏。海外百貨店からもオーダーが入ったものの、クッションのバジェットは少額に留まる。なかなか事業化出来ず悩んでいた時、ルーブル装飾美術館に本業である帯を展示する機会を得た。その企画展ニューヨークに巡回展をした際、西陣織の帯に1人のクリエーターが目を留めた。

その雅な帯に惚れ込んだのは建築家ピーター・マリノ(Peter Marino)。2009年5月、彼から1通のメールが彼に届いたという。その後、次々にピーター・マリノがデザインを手掛ける世界各国のラグジュアリーブランドストアの壁面やインテリアを、細尾の西陣織が彩るようになる。「西陣織固有の技法で、和紙に金箔や銀箔を漆で貼る技法があります。その和紙を髪の毛よりも細く裁断したものを織り込んでいるのです。幾重ものストラクチャーの中に金糸や銀糸を織り込んでいくことで、ブランドの商品を引立てながらも、その存在感に負けない役割を西陣織が果たしているのでは」と細尾氏。

今後の展開を訪ねると、「1200年間、日本国内だけで勝負していきた西陣織だからこそ、こうしてグローバルに展開した時、新しい発見を与えることができるのではないか。同じように、西陣織以外の伝統工芸にも逆にチャンスが広がっているのではないでしょうか。そして、西陣からこの織機の奏でる音色を絶やさないようにしたいと思っています」と返ってきた。

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3/5に続く。
Shigematsu Yuka
  • 幾重ものストラクチャーにより、実に表情豊かな織が仕上がる
  • 細尾のショールーム口の入り口
  • 西陣織が採用されたTUMIのバッグ。繰り返し締める帯に使われていた西陣織は強度もあるという
  • masayakushinoとコラボレーションしたドレスシューズ
  • 西陣織は帯に使われていたため強度があり、インテリアファブリックにも適している
  • 西陣織は帯に使われていたため強度があり、インテリアファブリックにも適している
  • 西陣織は帯に使われていたため強度があり、インテリアファブリックにも適している
  • こちらが和紙に漆で金箔を貼ったものを髪の毛より細く裁断したもの
  • 150センチ幅の織機が蔵の天井まで伸びる
  • 職人は耳や目などの五感を研ぎすまして、織が進むのを見守る
  • 約9,000本も糸で織機を操る
  • 縦色を変えるのには、約1日がかりで専門の職人が糸替えを行う
  • 織機の下に鏡があり、裏面の織も確認できるようになっている
  • 西陣が奏でる音を絶やしたくない--西陣織細尾・細尾真孝【京都のクリエーティブユニット「GO ON」2/5】
  • 昔ながらのシャトル
  • 帯を織るのに使われていた32センチ幅の織機
  • 帯を織るのに使われていた32センチ幅の織機
  • 蛇のうろこのような光沢を演出した西陣織
  • 西陣織の表面は凹凸があり、豊かな表情を見せる
  • 西陣織ならではの「しぼ」をもちいたテキスタイル
  • 細尾家に代々伝わる屏風には、過去の作品が飾られている
  • タイ王室に納められたという、タイ語の文字が織られた作品
  • 株式会社細尾の取締役・細尾真孝氏
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