ーー中村さんが考える、今の時代のもの作りとはどのようなものでしょうか。
昔の人は今ほど簡単に旅行や移動ができませんでした。昔はものに時間と人のフィルターが入っているから、色んな意味で面白く深く変化していった。ニューヨークで見たショーが日本に伝わるのにも時間が掛かりました。今は瞬時にインターネットで見られます。そう考えると、今のアドバンテージは情報化と簡単に距離の移動ができるということ。バイエルンにある家族経営の工場で作っている鹿革のレザーパンツを、日本で藍を使って染めることができたり、フランスのおばあちゃんにクロシェ編みのワンピースを作ってもらったり。そういう作り方は今でこそ可能になりました。
ーー世界各地の職人や工場はどのようにリサーチしていますか。
自分の興味のあること、関心のあることを調べて行ったら自然に情報が集まってきたという感じでしょうか。最近はうちのもの作りに興味を持って、向こうからコンタクトしていただくこともあります。サプライヤーのシカゴのレザー工場など、メインで一緒にもの作りをしているところにはなるべく足を運ぶようにしています。実際の作り方を見ると、ヒントにもなる。最近では、グァテマラでハットのテープを編んでもらっているのですが、そこはまだ行けていませんね。
ーー特に印象に残っている旅先はありますか。
インスピレーションソースでもあるアーミッシュが住むペンシルヴァニア州のコミュニティーにはニューヨークからよく行きました。彼らの服は、宗教上の理由でボタンなど装飾的なものが禁止されていて、コマーシャルな部分がない。ピュアなんです。子供服などにも愛情がこもっていて、好きですね。
ーー4月1日から始まる伊勢丹のイベントでは、青森の「こぎん刺し」を使ったアイテムを限定販売しますが、日本の手仕事に対してはどのように感じていますか。
「こぎん刺し」は以前も取り入れた技法ですが、布の保温性や強度を高めるために、手刺繍で糸を刺して行くので、やはりキャラクターが出ると思います。不思議なことに、こぎん刺しのような刺し子は、ペルーや台湾など、世界各地にあります。そうした手仕事を文化として保存するのではなく、現代のプロダクトとしても形にして行くことができれば嬉しいです。これまでも藍染めや泥染めなど日本の伝統技術に目を向けてきましたが、そういった試みから生まれたプロダクトがマーケットの中で商品として成立させることも大切だと考えています。
ーー最後に、ファッションブランドとしての独特なスタンスはどこから生まれるのでしょう。
ファッションって、着ている人の中身がにじみ出てくるものだと思います。自分自身もそうなのですが、年齢を重ねることで内面がより磨かれ、魅力的になりたいと思っています。同じように、自分の作る洋服や靴も、時間が経ち、使い込むことで良くなるものにしたいですね。
1/2に戻る。