――ガーターベルトやストッキング以外に、同様のツールはありますか?
例えば、和服を着てる人の中には、足袋に官能を感じる人もいますよね。足袋ってすごく拘束的で、“みちっ”と履くものですが、こだわってる人は、いかにみちみちに履くかに頭を使い、自分用にオーダーする人もいるほど。こうした「自分がこだわりたいもの」というのは、誰にとってもなにかしら存在するはずでしょう?何を官能的だと感じるかは、人によって異なるはずです。ですので、「自分にとっての官能」を見付けるためには、まずは自分の内面に目を向けることが大切です。
――足袋に官能を感じるというのは日本人ならではかもしれませんね。
私たち日本人は、江戸時代までは確かに存在した、日本的な官能の世界を忘れてしまっていると思います。当時の日本にはものすごくエロティックな文化が花開いていて、気にいった人がいたら夜這いもOKとされる時代もあったのに、明治維新を機に全て否定されてしまったんです。それはなぜかというと、和装が洋装に変わったから。
着物って実はすごい衣装で、どこからでも手が入るんです。身八つ口(=身頃の脇のあき)からもそうですし、めくれば(当時は)ショーツを履いてないわけですし。今の世の中では考えられないような官能の世界が広がっていたと思いますよ。
私たちはそうした民族的DNAを持っているはずなのに、それを全部ないことにして、セクシーと言えば、やれ黒い下着だのやれガーターベルトだの……という話になっていることに違和感を覚えます。「本当にそれだけが官能なの?」と。私は、そういう歴史的背景も心に留めつつ、自分なりの女性らしさや官能の表現を見付けることはとても大切だと思うんです。
――龍さんはオリジナルの下着を手掛けていますが、開発の際にも、日本の歴史や文化を意識してデザイン・開発なさいますか?
私は、日本人女性にとって一番美しく、無理のない姿勢をブラジャーで再現したいと思っているんです。日本人の身体の支点って、男性は丹田(おへその下辺り)、女性は胸の下なんです。その昔、日本人女性たちが着物を着ていた頃、帯で支点を支えた後、衿を抜くことによって、姿勢がぐっと起きていました。だからうちのブラジャーの前側は、伸びを止めて支点を作り、背中側のアンダーベルトは十分に伸び、かつ低い位置に留まるように工夫されています。これによって衿を抜いた時と同じように、自然と身体が起きるような力のバランスを再現出来るんです。
――ということは日本人にとってのベストな姿勢は、西洋人にとってのそれとは異なるのでしょうか?
西洋人はコルセットで身体を支えていたんで、上半身ごと筒状に立ちます。それに対して私たち日本人は、鎌首もたげるような起こし方ですね。自分も着物を着ると、「日本人ってこうだよな」ってことを実感します。衿を抜くアイデアって本当にすごいと感じます。それによって背中に意識を向けることが出来るんですから。
それと、しっかりと支点を固めて衿を抜いたら、あとは“ぐずぐず”なところを作るのもポイント。帯でしっかりと身体を立てながら、どこかに隙を作る。そう。官能にとって“コントラスト”って大事な要素なんです。「影のある部分と明るい部分」「きちっとした部分とルーズな部分」……その対比こそがエロティック。和装の世界にはまさにそれがありますし、本当に我々って官能的な民族なんだなってつくづく思います。現代人にもそのことを是非思い出してほしいです。例えばお祭りで浴衣を纏うときなんかも、これを意識するだけでぐっと魅力的に着こなすことが出来ると思うから。
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