京都の伝統工芸をリードする若手後継者ユニット「GO ON(ゴオン)」によるトークイベント「伝統の未来を語らう、食と工芸の饗宴。」が10月27日に開催された。会場となったのは、京都市左京区にある下鴨神社境内の直会殿(なおらいでん)。安政三年(1856年)創業の老舗、下鴨茶寮の料理がイベント後半に登場し、京都の伝統を一層色濃く演出した。
当イベントは、架空の人物“チャーリー・ヴァイス”により招待された粋な大人の男性のための企画。音楽、料理、写真などの多彩な趣味を持つチャーリー・ヴァイスは、各国を旅しながら交友関係を広げる遊びの達人だ。伊勢丹新宿店メンズ館8階には、彼が各地を回りセレクトした商品を販売するショップとギャラリーがあり、これまでも書道家や料理家など、旅の道中で出合った友人らと様々なイベントを開催してきた。
そのチャーリーが、今回ゲストに選んだのが「GO ON」の6名。メンバーは、元禄元年創業のる西陣織「細尾」の細尾真孝氏、竹工芸をファッションやインテリアにまで発展させた「公長齋小菅」の小菅達之氏、「ドン・ペリニヨン」公認の高野槙シャンパンクーラーで世界に名を馳せる木工芸「中川木工芸 比良工房」の中川周士氏、茶筒作りの上で日本一の歴史を持つ「開化堂」の八木隆裕氏(当日は石場亮輔氏が代理で出席)、平安時代からの伝統を受け継ぐ金網細工「金網つじ」の辻徹氏、およそ400年もの歴史を誇る「朝日焼」の16代目・松林佑典氏。いずれも明日の京都の伝統工芸を担う、若き才能ばかりだ。
トークセッションでは、チャーリー・ヴァイスの生みの親で下鴨茶寮の店主でもある小山薫堂氏と、ザ・リッツカールトン京都のコンシェルジュ・小山明美氏がファシリテーターを務め、京都の伝統の未来について「GO ON」メンバーがそれぞれの立場から意見を交わした。
その中で特に大きなキーワードとなったのが、「センスが良く目利き力のあるお客の存在」だ。これまでの京都の伝統工芸の発展を振り返ると、深い愛情を持って無理難題を求めるお客によって、作り手の技術が磨かれたてきたという経緯がある。今後伝統を守る上で、こうした文化をけん引するお客の存在は必要不可欠。小山氏も「センスの良いお客をいかに育てるかが一番の課題」と感想を述べた。
その後は、参加者らのテーブルに「GO ON」のメンバーが別れて座り、食事を楽しみながら互いに意見を交わし親交を深めた。参加者の一人、60代の経営者の男性は「若い伝統工芸士の活動や思い、物事のとらえ方を直接聞けたことが一番の収穫。若い世代の台頭に刺激を受けました」と喜びの声を寄せている。また、イベント終了後も「GO ON」のメンバーと参加者らが名残惜し気に談笑する風景からも、イベントの充実度が伺える。
この日の参加者は、いずれもチャーリー・ヴァイス同様、粋で遊び心ある男性30名。イベントを機に交友を深めた彼らは、今後も“センスと目利き力を備えたお客”として京都の伝統を守る担い手になることだろう。