2014年の1月に、リニューアル号からアートディレクターを務めた平林奈緒美氏に代わり、クリエイティブ集団「tha.ltd.(ティーエイチエー)」の阿部洋介氏をアートディレクターに迎えた雑誌『GINZA』は、2016年より、本格的にデジタル化を始動するという。『GINZA』編集長の中島敏子氏は、近年の出版不況・デジタル化の波をどう捉え、ドライブしているのだろうか。そして、これからの編集者に求められることとは?
ーー現在、雑誌業界は不況と言われてますが、それはデジタル化の拡大が関係してると思いますか?
関係してないとは言えないです。でも、稲穂が風に流れるようにみんな同じものを作っていたら、文化がなくなってしまいますよね。雑誌やメディアに携わる人は、自分が文化の片隅にいるという自負がないとダメだと思うんです。私たちはメディアや雑誌からいろんなことを学んできて、上の世代から受け継いだものを下の世代にもちゃんと伝えていかなきゃいけない、その責任があると思う。私はその使命感で『GINZA』をやっています。
ーーネット世代の雑誌離れも嘆かれていますよね。
若い人にとっては、「お金を出して情報を買う必要があるのか」というのが、デフォルトの疑問としてあると思うんです。でも、お金を出さないと買えない情報はあるし、やはりプロが作っているものは、SNSで右から左へ流れている情報とは圧倒的に違うということを感じてもらわないといけないんです。何が違うのかというと、編集力であり信頼感ですよね。私たちは基本的に、情報を載せることに対して、本当に載せていい情報なのかを吟味する。でも、SNSは見たままの情報がどんどんアップされていきますよね。これを読んで成長する子が、人生を踏み外しちゃいけないというある種の責任感と、こういう人生の選択もいいと思うよ、という示唆に富む内容であることが、プロの編集者の矜持でもあると思っています。
ーーウェブクリエイター「tha.ltd.」の阿部洋介さんがアートディレクターに就任しましたが、デジタル化への移行についての構想はありますか?
春にはオフィシャルサイトを新たに本格始動しようと考えているので、今年から「tha.ltd.」と一緒にやる意味がより色濃く出てくると思います。まず、紙は紙に即したデザインと内容があるように、ウェブにはウェブに適した表現があると思っているので、これから作るのは紙面とは異なる独立したメディアとして見てもらいたい。雑誌を買ったことがないけれど『GINZA』のウェブは見ているという人も育てることができたらと。私が『GINZA』を始めたときの構想は紙でスタートしたけれど、紙であり、ウェブであり、イベントでありという、メディアを縦断するものにしたかったんです。ブランディングの総称として『GINZA』という名前を持っていきたい。『GINZA』=紙媒体ではない、というイメージを定着させていきたいと思っています。
ーーますます立体的な媒体になっていくんですね。最後に、編集者には、これからどういう力が求められていくと思いますか?
編集って、雑誌だけじゃなくてありとあらゆるものが対象になり得る。だから、メディア編集者にこれから必要なのは、ページを作ることだけではない、プロデュース能力ですね。それをどう伝えるのか、そこからどうアクションを起こさせるか、というところまで視野に入れて作ること。作って終わるのではなくて、それが読者にどういう影響を及ぼすかに対してまで見届ける、というところで完結するタスクなんじゃないかなと。だからこそ、伝えるためのブランディング戦略が求められますよね。これからの編集者に求められているものは重いと思います。何にもできないけど何でもできる、それが編集者ですから(笑)。
---【日本の編集力 vol.2】中島編集長インタビューをはじめから読む。