モードや芸術の花が咲き乱れた「レ・ザネ・フォール(狂乱の時代)」と呼ばれるパリの喧騒の中『ロフィシャル』(1921年創刊)は誕生した。モード誌の中で伝統的なハイ・モードを表現し、オートクチュールの世界感に最も近い雑誌と位置付けられている。現在29カ国で発刊され、10月1日に30番目の『ロフィシャル ジャパン』が再創刊する。(再創刊の意味については、ファッション・ヘッドライン『日本モード誌クロニクル第3部』を参照されたい。
再創刊に至った経緯について発行人兼編集人を務める馬淵哲矢氏に訊ねると、以前からロフィシャルの妹版『ジャルーズ』のジェニファー編集長に日本ブランドのファッション・カタログ制作を依頼していた。会うたびに、『ジャルーズ』の日本版を創刊しようと話していたところ、本当にやる氣ならまず旗艦誌でもある『ロフィシャル』をということになり、ことは動き始めた。
「当初、あるケーブルTVの出版部門でという話でしたが、セブン&アイ出版の常務執行役員である大久保清彦氏に『ロフィシャル』出版の権利を所有していると話すと、ぜひ共同発行人として出版したいとのオファーがありました」と権利取得から3年かけて再創刊の準備が整ったと馬淵氏は語り始めた。
セブン&アイ出版は、母体となるセブン&ホールディングスの流通システムを活用して新たな販路を構築している。従来の取次を通して配本されるシステムの他に、今や雑誌流通の主役となっているコンビニエンスストアの雑誌コーナーは侮れず、各出版社はそのスペースを狙っている。
インターネットは、30年前に3万店あった書店を8千店と激減させた。手にとって本を買うという行為はなくなることはないにしても、書店の数が減っている現状では販路の拡大は望めない。「セブン&アイホールディングスには、コンビニエンスストアのセブンイレブンがあります。その数は全国1万8千店舗に及んでいます。そこに流通のルートがあることは非常に魅力的ですね」。世界で最も高級なモード誌を、コンビニエンスストアの書棚に並べることへの、批判の声も聞こえてくるなか、決然とした馬淵氏の発言には、勝算ありと信じてのことのようだ。インターネットは時代の価値観を変えている。これまでの常識は非常識に変わるかもしれない、モード誌のコンテンツに変化はないかもしれないが、ハード面では変化を遂げようとしているのだ。
セブンアンドホールディングスは、グループをあげて流通のオムニチャネル化を進めている。ネットとリアルを融合して、いつでも、どこでも、どんな方法でも的確な情報を得て、望む物が手に入る流通システが構築されつつあるのだ。そのシステムは紙媒体とネットの世界でも、新たな展開をもたらすに違いない。
---後編の「出版界に風穴開くか。『ロフィシャル ジャパン』のアドバンテージとは」に続く。