東京・六本木の国立新美術館(新美)で4月1日まで開催されている「アーティストファイル2013」へ行ってきました。
アーティストファイルはテーマを設けない展覧会です。“現代”を映し出す作家を新美の学芸員が選び、それぞれの作家へ大きなスペースを提供し、個展のように展示を行うので迫力のある作品が多くそろいます。毎年訪れているのですが、今年は全体を通して多くの作品から「記憶と記録」について考えさせられました。
“現代”のアートが追求している大きなテーマが「記憶と記録」ということなのかもしれません。企画の趣旨を明言せず、“感じさせる”企画こそが優れた企画だとすれば、今年のアーティストファイルは大成功と言えると思います。
「記憶」もしくは「記録」を感じた展示を紹介します。
ダレン・アーモンドが2005年にターナー賞を受賞した作品「if I had you」というインスタレーションは、おばあさんが亡くなってしまったパートナーとの思い出を「回想する」というとてもロマンチックな作品です。「時間の経過」と「記憶の切なさ」をロマンチックに表現しています。
写真家の志賀理恵子さんは宮城県の海沿いの集落に住み込み、そこのコミュニティーの写真家として撮影してきた写真を、大きくプリントして雑多に立て掛けて展示しています。震災後にとても話題になった作品です。写真の展示では「記憶と記録」についてよく考えさせられることが多いのですが、志賀さんの写真は「記録する」という行為の意味を重く追求しています。
東亭順(あずまてい・じゅん)さんは、使用済みシーツをキャンバスにし、それに残る寝た人の「跡」に絵具を施した絵画作品を展示しています。「生々しくそこに存在した人の記憶」をクリーンに、そしてノスタルジックに表現していました。
ジョン・ヨンドゥはランダムに出会った人の「過去の記憶」を聞き出し、映像作品として再現しています。記憶の中の出来事は完全な再現ができませんよね。再現できない、戻れないものであるから、記憶はロマンスがある……そんなことを感じさせてくれる作品です。
利部志穂(かがぶ・しほ)さんの作品は、細々とした得体の知れないモノを広いスペースに並べたインスタレーションです。スペースに散らばったモノの中を歩き、何度も振り返ってモノ達を確認することで、一つのモノが様々な形に見えてきます。私達の視覚の記憶が確かなのか、「記憶をふりかえる」ことを意識させられます。
「記憶」はあいまいで再現できないからこそ、ロマンチックでもあり、ドラマチックでもあります。その「記憶」をどのように「記録」するのか。そんなことを現代アートは色んな形で実験しているのでしょう。