【編集ブログ】最黒譚

2013.02.19

前回は日文学だったので、今回はフランス作家・思想家ジョルジュ・バタイユ(Georges Bataille)を紹介しよう。サドやマゾッホを発展させたような暗黒の中の暗黒だ。

私がバタイユと出合ったのは、私が大学2年の頃。クラシック音楽評論で有名な某教授による本を読む授業で題材として取り上げられた。確か初回だったと思う。因みにこの授業は1週間で題材の本を読んできて、感想をただ語るという楽勝な授業だった。そして取っていた面々もかなり危ない奴らばかり。教授は常に黒づくめで、澁澤龍彦でも目指しているのだろうか? と内心思っていた。まあ、課される本も澁澤系であったのだが。

さて、その授業で読んだ「眼球譚(Histoire de l'œil)」は私の実存世界を一変させてくれる読書体験であった。単純に言ったらエロスとスカトロジーとタナトスと冒涜のみで構成されている。因みに教授はフランス語のこの原文をドイツ語の授業で訳させるというほど眼球譚が好きで、内容が内容のため途中で怒って出て行った女子学生がいたとのことだ。

詳細な表現はこの場では記載しないが、作品名の通り、眼球をテーマに玉子や牛の睾丸など連想を膨らまし、さまざまな恥辱行為とともにエスカレートしていく話だ。無駄に人が死に、殺し、神への冒涜を続ける。読みようによっては主人公の少年(一人称語り)とヒロインのシモーヌの友達以上恋人未満のちょっと哀しい破廉恥ストーリーとして読めなくもない。

今では河出書房と光文社から手に入りやすい文庫が出ている。光文社は中条正平による新訳の物で「目玉の話」と改題されているからご注意を。読みやすい現代的な言葉使いだ。しかし、やはりここは今まで定番とされてきた生田耕作の訳を読んでもらいたい。格調高い日本語でエログロ暗黒世界が高らかに謳われている。私は生田のハードカバーと光文社の文庫、集英社の文庫を持っているほどこの作品が好きだ。

4年前パリに行ったとき、読めもしないのに原文のペーパーバックを買った。表紙が人形作家ハンス・ベルメール(Hans Bellmer)のドローイングだったからだ。眼球譚の初版は1928年、オーシュ卿(Lord Auch)の偽名で出版された。その後、1947年に挿画をベルメールのものに差し替え再刊行されている。ベルメールのいかがわしい線がとても物語世界に合っている。

ヤヴァイ作品ばかり綴ってきたバタイユだが、本業は国立図書館司書というお堅い職業。本性が明かされていないが裁判官や大学教授と目されている沼正三みたいだ。

三島由紀夫はバタイユがお気に入りだったという。というわけで次は三島にしようか。
エビゾー
  • 左/光文社古典新訳文庫、右/二見書房
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