今、アーティストが生み出すのは、形や素材、色彩を美のよりどころにしたモノだけではない。例えば、インタラクティブな体験型の作品やテクノロジーを駆使した新しい表現メディア、それによるコミュニケーションやコミュニティの再創造も表現者の役割になっている。
テクノロジーと表現の可能性について、真鍋大度さんに話を聞いた。
ーーダンス、音楽、プログラミングなど異なる領域を横断して、一つの表現を確立していくために、やはりテクノロジーが軸になるのでしょうか。
特に、僕のメインのフィールドである音楽やダンスは、新しいテクノロジーの影響を最も受ける表現のひとつだと思います。個人的には新しいものだけでなく医療用のセンサーなど、別の分野で使われていた装置で楽器を作ったりもしてきました。例えば、新しいドラムマシーンができたら、サンプラーが生まれ、それが主流になることもあるなど、テクノロジーによってジャンルが更新されることもあるし、僕自身もそれを目指していますね。
ーーそれは、特にご自身でプログラミングもされるからだと思います。その優位性とは?
プログラミングに興味をもったのは、それによって自分が想像していなかった音楽を作ることができたから。しかし、それは昔から他の表現者もやっていますし、すでに当たり前になってきている。なので、最近は人工知能の開発にすごく興味があります。人工知能で新しい音楽を作ることもありますが、自分の分身を作ることで、自分のプレイの特徴を紐解くこともできる。例えば、「リバーブというエフェクトが深くかかっている曲が、僕は苦手なんだ」というのも、改めて客観的に知ることができる。
ーーあくまで研究者ではなく、表現者であることが、真鍋さんの前提にあると思います。技術を表現のレベルに持っていくために、意識されていることは?
新しいテクノロジーを作品に応用しようとするとき、単なる技術ショーにならずに、どう表現に昇華させるかがポイントで、それが難しい。アイデアは、誰でも想像できる。しかし、それを最適に具現化していくためには、人間からテクノロジーに要求しなければいけないことも多いし、その逆もある。既存のソフトウエアではなく、オリジナルのソフトを作らなければいけないこともありますし、表現の感性とエンジニアリングのスキルを上手い具合に融合させることがポイントになってきます。僕らはアイデアから実装までを自分たちでやっていますが、表現の部分では自分たちだけで出来ない部分もあるのでコラボレーションが必要になります。
ーー「まだ誰もやったことのないことに挑戦したい」という言葉をインタビューやドキュメンタリーで度々耳にします。それは、表現は一種の発明である、クリエーターにはパイオニア的な役割もあるということでしょうか
僕たちの役割というか、挑戦していることは、誰もやったことのない表現を見つけるということなので、技術的には枯れていても全く問題ありません。ただテクノロジーを使って、ただコンテンツを作るだけでは新しい表現は作り出せないので、アイデアや工夫が必要になってきますね。そのためには技術的なことだけでなく、前例を調べることが重要です。具体的には、学会に足を運んだり、論文を読んだりというところから、研究所を訪問して取材するなど色々な形があります。たくさん作品に触れることも重要かと思います。
ーー新しい表現を見る人に理解してもらうために、配慮していることはあるのでしょうか。
アートとして見せるか、エンターテインメントとして見せるかで、それはだいぶ異なってきます。エンターテインメントの場合は、演出家の方とブリーフィングすることを大切にしています。演出は、テクノロジーを感じさせないもの。テクノロジーが前に出過ぎると、技術解説になってしまいますから。僕らが演出家に渡すデモやプロトタイプの紹介映像はテクノロジーのデモ映像で、表現のレベルには到達していません。それをMIKIKO先生のような演出家やHIFANAやRADWIMPSの野田洋次郎君のようなミュージシャンが表現に昇華してくれるんです。
2/2は真鍋さんに「アップルウォッチの創造性」について聞く。