こうして独自のテクノロジー使いの美学を、徐々に確立しようとしている真鍋大度だが、その圧倒的な信頼感はどこから生まれてくるのだろうか。
父はコントラバス奏者としてジャズやミュージカルの分野で活動、母はキーボードプレイヤーという、音楽一家に生まれ育った。幼少時からピアノのレッスンを続けたが、中学時代には「ピアノをやりたくなさすぎて、泣いてやめさせてもらった(笑)」という。高校時代からクラブイベントなどでDJとして活動し、そこで音楽の持つエンターテインメント性に触れた。
東京理科大学ではもともと好きで得意だった数学を専攻。大学卒業後は大手電機メーカーに入社し、システムエンジニアとして社会人経験を経た後、ウェブベンチャー企業に転職。ここでもエンタメ性の強い、様々なコンテンツの開発にかかわったという。
退職後、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)に入学。最先端のプログラミングアートのスキルを身に付けた。
「好きだった数学、音楽、プログラミング、どれをとっても、スペシャリストにはなれなかったですね。音楽的であることと、数学的であることには自然と拘っているのかもしれないです」
エンターテインメントだけでなく、美術館やギャラリーなど、アートの領域でも更なる実験を続ける真鍋の現在の関心事は「社会に実際に触れる作品」だ。
東京都現代美術館で開催中の企画展「うさぎスマッシュ」に出展している新作は、なんと実在の株式市場(東証一部)で、実際のトレーディングをつくるという、あまりにもラジカルなプロジェクトである。
「リアルタイムで市場のデータを可視化、可聴化しています。CMDラボの尹さんという研究者の方に監修して頂いているプロジェクトなのですが、最終的には解析部分をもう少し頑張って実際に取引を行うことを検討しています。従来とは違うアプローチがまだあるのではと思って作品を作ることにしました」
この企画力と実行力は、正にデジタルクリエーターのフットワークの軽さがあればこそ可能になることなのだろう。
微かに末恐ろしさを感じると共に、それが社会自体の変革にもつながっていくとしたら、メディアアートの役割は既に変化の萌しを見せているのかもしれないと、ちょっと明るい気持ちになる。真鍋大度とライゾマティクスの活動領域は恐らく留まるところを知らず、今後更に拡張していくだろう。
テクノロジーの使い手を代表するアーティストとして、あくまで「研究開発ありき」の信頼性と、社会に直にコミットしていく「現場感」を強みに、世の中を少しでも良くするアイデアをすっきりと実現してくれたらと願う。やはりお手本はディズニーで!