独・ハンブルク出身、現在はニューヨークを拠点に活動するロバート・ゲラー(Robert Geller)。マーク・ジェイコブスでインターンを務めた後、クローク設立に携わる。2007年に自らのブランドを立ち上げると、2009年にはGQ/CFDAでアメリカ・ベスト新人メンズデザイナー賞を受賞。2010年にはVOGUE/CFDAにノミネート、2011年には、メンズ部門のスワロフスキー賞を受賞するなど、着々とキャリアを重ねている若手デザイナーだ。
風合いのある生地使いや、異素材のミックススタイルに定評があり、国内ではアメリカンラグシーやエストネーションで販売されている。この度日本にリサーチへ来たゲラーに時間をもらった。
――コレクションには日本のファブリックを使っているとか。
日本の生地と最初に出合ったのは、マーク・ジェイコブスで働いていた時ですが、クロークの時代にもプルミエール・ヴィジョンに行くと「いいな」と思う生地の9割以上が日本のものでした。クオリティーやカラーが自分の美意識とすごくマッチしていたのです。例えば、ウール一つとっても、イタリアのものはパキッと明るすぎる。対して日本の生地には、何とも表現し難い微妙な色合いの生地がたくさんあり、驚きました。
その後、日本のメーカーと仕事をする機会がありましたが、それもまたごく自然に自分の感性にフィットしていたんです。私はドイツ生まれのドイツ育ちですが、メンタリティーなど日本人とドイツ人には共通する部分があると感じます。車がいなくても赤信号できちんと立ち止まるのは、世界中でもドイツと日本の2ヶ国だけです(笑)。そういう秩序を大切にするところなど、私にはとても居心地が良いんです。
――最初から日本製ありきではなく選んだ結果が日本の生地、というのは日本人として、とても光栄です。AWで特に気に入ったファブリックはどんなものでしょう?
たくさんあって迷いますが、一つ選ぶとしたらキュプラです。シルクの光沢感がありながら、洗いをかけるとソフトになる仕上がりがとても気に入っています。化学繊維と天然繊維のミックスによって、それぞれの長所が生かされる、そういう生地が好きですね。
――改めてAWのコンセプトや特徴について教えてください。
デザインをする時には、ある時代にフォーカスを当てることが多いのですが、今回は1920年代のベルリンをイメージしています。特にその時代のドイツ映画『カリガリ博士』からインスピレーションを受けていますね。
大戦によって経済的なダメージを受けたドイツでは、エンターテインメント分野でも海外との交流ができる状態ではなかったんですが、それがむしろ国内の映画産業を発展させることになりました。当時のモノクロ映画は美しく、独特のメイクや、シンプルなセット、それでいて芯の強さを感じさせる。暗さの中に流れる強さには共感するものがありますね。
――そうしたインスピレーションをコレクションではどのように具体化しているのでしょう?
一つはラバーコーティングです。例えばシャツは内側にプリントをした生地の表にコーティングをしています。それからドット柄のシャツも特長的です。ドットの部分を漂白し、裏側を表に出してフェードアウトしたような柄に仕上げました。パンツにカラーコーティングを施したものもありますね。
――スタイリングを見ると、レイヤードが多い印象があります。
ランウエイはニューヨーク在住のスタイリスト、タケナカさんと一緒にやっています。ふたりとも、彫刻のように重ねて、重ねて、固めていくというようなスタイリングが好きで、求めているシルエットも似ています。彼も私もランウエイで見せるものは、エンターテインメントの側面が必要だと考えているので、単純なパンツとシャツだったとしても、そこにはやはり何か、面白いじゃない!と思わせる要素を入れようとしているのです。
――ダウンも登場しましたね。
タトラスとのコラボです。最初の打ち合わせでは、そのクオリティーの高さに感動しました。
――ショーも楽しめますが、やはりディテールのお話を伺うと、なるほどと思います。
そこがランウエイの問題ですね。スタイリングにいくら気を配っても、仕上げや肌触りは分かりません。ランウエイで音楽が始まる瞬間は格別です。そのエネルギーは大好きですが、服を見せるという点ではベストとは言えませんね。
――そうなるとやはりショップを持たないと、ということになりますか?
ブランドとしてはそれが次のステップです。ロバート・ゲラーの世界観を提示するためにも、それぞれのアイテムに触れ、ディテールを見てもらうためにも。やはりホールセールでは、限界があります。ランウエイでいいなと思っても、ショップに行ったらパンツが5点、デニムが5点、セーターにスウェット。もしかしたらコレクションピースのジャケットはないかもしれない。でも実際、シャツは25点売れてもジャケットは1着しか売れないとなれば、ショップでも仕入れを控えてしまいます。景気が悪く、ファッション業界も厳しい時代ですが、そもそもファッションとはすごく楽しくて、自分を幸せにするもの。エキサイティングなファッションシーンを早く取り戻したいですね。
vol.2/2に続く